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いつか見た空の続きを

空と書いてゆめと読みます。コラージュ作家、イラストレーター引地渉のブログです。

東洋経済新報社の『実験ミクロ経済学』の装画をしました。
大学向けの教科書として画期的な本なので、表紙も斬新で洒落た感じにしたいとのこと。デザインは米谷豪さん。落ち着いた帯を外した時との印象の変わり方が気に入っています。
経済にはとんと疎いですが、これで勉強すれば少しはお金に縁のある生活ができるのかな?
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(写真ピンぼけ^^;)
色々ぼやいたりしているけど、イラストレーターという仕事はやっぱり面白い。コミュ力ないなりに続けていきたい。

実験ミクロ経済学/東洋経済新報社

¥2,310
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 涼しくなったと思ったのは彼の気のせいだったようだ。扇風機は、彼とMacBookProの暴走を止めるべくガダルカナルへと向かう零戦の如き唸りを上げていた。

 教室に行くとアンケートがあって、設問の一つに、
「何を撮りたいですか?」というのがあった。
 何だろう。あれ…全然思いつかないや…。
 当たり前の事だが、写真は被写体がなければ始まらない。人物とか、風景とかきれいに撮れたらいい、そんなレベルでしか考えていなかったので、ちょっと戸惑ってしまった。
 何を撮るか。うーん、悩む。写真って難しいな。やっぱ絵とは違うんだな…あれ、でも何かこの感じは既視感があるな。
 そうだ、絵の時と同じだ。何を描いたらいいか。全く思い浮かばなかった。放置された白いキャンバスは、単なるメモ貼り用の板に成り下がっていた。そのメモすら数年前から更新が途絶えている。「ラザニア200℃20分」を書いたのはいつだったのか、彼は全く思い出せなかった。
 どんなジャンルの表現にせよ、何をテーマにするかというのはとても大事な問題だ。クリエイティブの根幹と言ってもいい。ある意味、技術的なことよりもずっと。
 己の甘さにすっかり怖じ気づき目も虚ろな彼に、先生は言った。

「楽しくやりまショー!」

 テンション高え…やっぱアイドルとか撮ってる人は違う。
 彼はついていけるか益々不安になるのだった。

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 扇風機の奏でる弱リズムの風が、幾分涼しくなった気がする。
 相変わらず自分のスタンスについてモヤモヤしたものを抱えながら過ごしているわけだが、一つ変わった事がある。いっそのこと絵を学ぶのではなく、写真を学んでみることにしたのだ。
 これは、本来の目的とは全く正反対の方角に向かっているのかも知れない。天の邪鬼な性格が災いしてついついこういう選択をしてしまう癖がある。自分でもめんどくさい奴だなとは思う。
 クリエイティブな表現もスマホのアプリで簡単に出来てしまう時代である。最近のデジカメはよく出来ているので、僕のようなずぶの素人でもそれなりに撮れる。多少の失敗も後からどうにでもいじる事が出来るのでコラージュの素材としてはそれで充分だ。むしろ素材の写真が良すぎるとコラージュはうまく行かない。写真そのもので完成していたら、わざわざ継ぎはぎする理由がなくなってしまう。
 写真についてもう少し深く知ることで、その辺の認識が変わる可能性はある。流石に今更商売変えする気はないので、あくまでも趣味の延長ではあるのだけれど、知らない世界に一歩踏み込むということに少しわくわくしている。そういう好奇心がまだ残っていたことに微かな救いを感じる。
 とにかくそうして僕は少し怪しい香りのする写真教室の門を叩くことにしたのだった。

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 先週、東京工芸大学で講義をしてきた。
 芸術学部にマンガ学科というのがあり、そこの教授の菊池優さんのマンガ総合特講のゲスト講師として、主に書籍の装画という仕事について話した。菊池さんは一番最初に勤めた出版プロデュースの会社シップス時代の上司でもう二十年近いお付き合いになる。玖保キリコさん等名だたる漫画家さんのマネージャーをしていただけあって、非常に面倒見のいい人なので、ワガママ言って会社を辞めた後も何かとお世話になってしまっている。
 出来たばかりの真新しい校舎は整然としていて大企業のオフィスみたい。イメージしていたのと違ってちょっとビビる。
 講義するにあたって、自分の学生時代から書籍の装画という仕事に関われるまでを話すのがわかりやすいかと思ったのだが、ムダに回り道をしているので、長々とおっさんの昔話を聞かせてしまったかもしれない。装画の仕事にたどり着けたのも、運が良かっただけなので、正直あまり参考にはならないだろう。
 書籍の装画という仕事は魅力的ではあるけれど、ビジネスとしては相当危ういと思う。そもそも本のカバーに絵は必要不可欠なものではない。著者や出版社の家にデザイナーさんに仲介してもらって居候しているみたいなものだ。いつ追い出されても不思議ではない。
 最近は仕事のペースも落ちていて、とても偉そうに講義出来る状況ではなかったりもするのだが、夢のない話をしても暗くなるだけなので、自分が装画を手がけた十数冊の本について淡々と説明した。

 講義の後、学生達が書いたレポートを読んでいるとみんな真剣に聞いてくれたようで驚いた。自分が学生だった頃と比べて時代が厳しくなっているせいもあるのかも知れない。鋭い質問が多く、答えていると自分でも気づかなかったことに気づかされる。例えば好きな色は?という質問で、実は嫌いな色というのがないことに気がついた。他人の視点には新しい発見がある。

 ともあれ自分がやってきたことについて振り返るいい機会にはなった。
 自分はコラージュによって救われたかもしれないが、やはりそれは禁断の果実であったとも思う。手描き時代にあった野暮ったさは消え、作風はスタイリッシュになり、仕事としての使い勝手もよくなっただろう。だが、あれから僕は絵を描かなくなったし、描けなくなった。
 最近その事が少し引っかかっている。
2010年にピューリツァー賞を受賞したポール・ハーディングの『ティンカーズ』の装画をしました。
$いつか見た空の続きを-Tinkersカバー

死期を迎える主人公の脳裡に甦る父と祖父の記憶。時計職人、行商、森の中、癲癇の発作。言葉のコラージュとも言えるような様々なイメージが交錯する不思議な小説でした。海外小説って平易な言葉で翻訳されていても、どこか手の届かない世界を歩いているような気になります。それが結構好き。言葉のリズムが心地いい。
装丁は緒方修一氏。白水社EXLIBRISのカバーはどれも上品で美しいです。

素材は西荻窪や亀戸の古道具屋をまわって集めました。昔の振り子時計は家一軒買える位の値段だったとか色んな事を教えてもらいながら。何だかRPGのアイテム集めみたいな感じ。今回撮影も自分でやってみたり。諸々含めて楽しいお仕事でした。

更新サボり過ぎですね。。。これからは相当気張らないと生きて行けない感じなので、気を入れ直して行きたいと思います。

ティンカーズ (エクス・リブリス)/ポール ハーディング

¥2,205
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急遽イベントに参加する事になりました。場所は渋谷の駅前に出来たクリエイター向けのシェアオフィス「PoRTAL」です。

「PoRTAL」オフィシャルサイト
http://www.hituji.jp/portal/

PoRTAL オープニング記念イベント企画
work&shops

クリエイターやアーティストの「はたらく」がカタチに。
普段の買い物ではなかなか経験できない、彼らの個性的な働き方と、独創的な作品や商品を見ることができる、期間限定のコミュニケーションショップイベントです。

2012.03.19(mon)-20(tue)
19(mon) opning party 19:00start
20(tue) 10:00-19:00

【参加クリエイター】
novelax :能登夫妻/Schatje Design/fift/FormlessDesign/水口奈美/PRODUCTIVE MIND/熊野亘/studio note

ジカバイ組合:MicroWorks/ONO/おもての服/ノックの帽子屋/itos/マフィオ/café obscura/mushroom'y

MY’S/田中サヤ/引地渉/ぶりお

※参加者は変更になる場合があります

あと一週間しかないので、果たして準備間に合うんだろうかという不安はありますが、皆様のご来場をお待ちしております。

ギャラリーダズルにてエコバッグを素材にしたグループ展に参加します。本日より開催です^^;
皆様のご来場をお待ちしております。

「デコ・エコ・バッグ」 -作家が飾るエコバッグ展-

11/29~12/4メイン展示
(後半は単品展示)
下田美賀・伊藤尚子・加藤聖子・山本重也・引地渉
坪島美里・Bird Deco・植野のぞみ・酒井賢司

12/6~12/11メイン展示
(前半は単品展示)
スサイタカコ・IRIIRI・戸塚くるみ・蒲原元・和田佳宏
もとき理川・藪崎久也・室岡昭子・福留鉄夫

企画:福留鉄夫

いわゆる雑貨的なモノってほとんどやった事がないし、どう作っていいのか悩んだ。
いつもの紙のコラージュを貼付けるというのは何か違う気がしたので、糸を使って描いてみた。
これが案外面白くて、すごくわかりやすいモチーフが出てくる。この間の個展は抽象ばかり作っていたのでその反動かも知れない。
電飾はおまけ的なものだが、自転車で車道を走る時なんかは目立っていいと思う。中に入れてもいいし、取り外しも出来る。部屋にかけておく時は照明としても使える。電池式なので停電の時とかにもいい。
そんな感じで自分はシンプルに作ってしまったが、他の方々は結構デコっていて見応えがある作品が多かった。G8でもトートバッグの展示をやっているが、見比べてみても面白いかも知れない。

$いつか見た空の続きを-デコエコバッグ
個展も終わって。
見逃してしまったという方はクリ8のサイトにほぼ全ての作品の写真がアップされております。
http://www.cre-8.jp/pickup/pickup.php?pickup_id=610
忘れないうちに反省点等まとめようと思いつつなかなか出来ないでいる。

今月末にはDAZZZLEのデコ・エコ・バッグがある。個展の反動もあってこちらはものすごく分かりやすい作品の出品になりそうである。乞うご期待。

先週は二つのイベントに参加した。どちらも自分よりは上の世代の表現者の方のイベントである。

イラストレーターでもあり絵本作家でもある荒井良二さんのワークショップ。
荒井さんを見ていてすごいと思ったのは作業する時の疾走感である。何も考えずに会場に来て、その場で思いつくままに作業に突入する。そして出来たものには固執せず、すぐにそれを捨て、また新しい試みに突入していく。気さくな語り口で冗談を交えて話しながらも頭と手はフル回転で、作ることの面白さをどん欲に追求している。そんな印象を受けた。
内容自体は紙を切って絵を作るというもので、普段筆で描いてる人にとっては新鮮だったと思うけど、自分はちょっと新鮮味が足りなかった^^…。

古我地さんは沖縄民謡の歌い手である。島製作所というデザイン事務所でのライブにお邪魔した。
いつ始まっていつ終わるのかわからないような語りと歌とが混然となった不思議なライブだった。音楽を通じて今の世の中が失ってしまった何かを訴えかけている。沖縄言葉の混ざった語り口は時に優しく時に鋭い。音楽のあり方も激変していると思うが、この人の音楽はライブで聞かないと意味がないと思う。ダウンロードでも、CDでもレコードでもなく、コンサートでもない。音楽が本来担っていた役割を大事にしたいという思いは時代という逆流を遡るようで考えさせられる。

自分には荒井さんのようなパワフルさも、古我地さんのような純朴さもないから、そのまま真似できるわけではないけれど、元気な上の世代を見ていると将来の自分についてわずかながら希望が湧いてくる。個展をして分かった事の一つは、自分がまだ迷宮の入口に立っているにすぎないということだ。これから10年、20年先の自分を描いて行く必要がある。

いよいよ金曜から個展が始まってしまう。
明日は搬入。総数は多分40点位でほぼ新作。
今回は抽象的で地味な作品が多いので、何か伝わりにくい展示になりそうではある。

ただそれが紛れもなく引地渉の現在であるということは言える。
デザインや媒体によって増幅されたイラストレーションになる前の、そぎ落とされた矮小な自分の残骸が無惨に転がっている。
本人としてはそれを確認出来て良かったと思うが、見に来て頂いた方に楽しんで頂けるかはちょっとわからない。( ゚д゚)ポカーンとしてしまったら申し訳ない。
そんなサービス精神に欠けた個展ではありますが、ご高覧頂ければ幸いです。

引地渉個展「焦燥とロマン」
2011年10月28日(金)~11月2日(水)11:00-19:00(最終日は17:00まで)
opening party 28日(金)18:00~20:00
場所:HBギャラリー

$いつか見た空の続きを
個展「焦燥とロマン」について少し触れたいと思う。

 とりあえず冷静にならないようにしている。冷静な目で見たら、ただの紙くずでしかないからだ。そんなものに値段を付けて売るということに何の疑問も抱かないよう、ヘッドホンで耳を塞ぎながら作業を続けている。
 今回はほとんど新作になりそうである。ぶっちゃけ今年は仕事もあまりしていないし、作り置きの作品がなかった。なので今なお鋭意製作中。抽象ばかりになりそう。DMの作品は割と受け入れられやすそうなのを選んでいるので、印象が異なるかも知れない。相変わらず小さい作品が多い。本人同様ちまちまとした作品を作っている。
「焦燥とロマン」となっているが、焦燥とロマンの比率は焦燥の方が圧倒的に多そうである。
 それは震災があり、原発事故が起きた2011年だからと言いたいところだが、それ以前の問題かも知れない。早いもので、イラストレーターも7年目になった。いつまでも新人気分ではいられないし、かといって確固たる土台ができている訳でもない。個展も6回目になる。そんなにやる必要があるのかわからないが、そういう機会でもないと、作品を作ろうという気にならない怠け者なのでこれは定期的にやった方がいいだろう。それは表立って他人に向かい合うという事でもあり、とても面倒くさいことも孕んでくるのだが、あまりそこは考えないようにしよう。

$いつか見た空の続きを-06R